大判例

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大阪高等裁判所 昭和38年(う)996号 判決

判決理由〔抄録〕

原判決は、右のように被告人がその前方に右折の信号を表示しつつ停車中の自動車を認めた場合、右停止車の手前で一時停止するか、そうでないとしても徐行しながら警笛を吹鳴して自車の接近を相手に覚知させ、停止自動車を右折前進させて道路の安全を確めた上進行を継続するか、又は同様警笛を鳴らし同車の行動を厳に注意しつつ間隔を十分保って(即ち同車の後方に接着することなく)徐行通過するなどの措置を取り、以て事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。従って被告人が中島の運転する自動車がそのまま停止しているかもしくはその位置から右の方向に前進を開始するものと軽信し、警笛による接近の合図をしないで時速を四〇粁位に減じたのみで同車の後に接着して通過しようとしたのは、前記のような自動車運転者としての注意義務に違反したものであると判示する。

そこで案ずるに、当時中島吉弥は右国道を南下し、同交差点より県道を西進して自宅へ帰ろうとしたのであるが、たまたま県道を西方より自動車が東進して来たので同交差点付近で停車して待避し、その自動車が国道を北進し去った直後前進しようとした際、変速ギアーを誤ってバックに入れたため急に車が後退し後続の被告人の自動車と衝突したもので、中島の意図に反したものであることは原判決挙示の証拠によって十分認め得るところであり、又当時中島の自動車の進行をはばむような対向する東進車又は北進車通行人その他の障害物のあったことは証拠上認められず、中島において前記のように右折の信号を表示しながら停車している以上、後続する自動車の運転者たる被告人において中島の車が右折前進するものと考えるのは当然であり、同車がその点滅する方向指示と反対の方向に突然後退するという如き、通常起り得ない稀有の危険の発生を予測することを被告人に期待することは無理である。従ってかかる危険の発生にそなえて或いは警笛を吹鳴して相手方に注意を促すとか、或いは被告人が一応減速して進行した以上一たん停止又は減速徐行するとか、或いはこれ以上の間隔を保って後方を通過するなど、これに対応する措置を講じなければならないとすることは過度の注意を求めることであり、被告人にかかる業務上の注意義務があるとは解せられない。

しかも、中島吉弥の原審公判廷における供述記載によると、同人は被告人の自動車のヘッドライトの照明によりそれが後方から近付いて来ることに気が付いていたことが認められ、中島が自動車を後退させたのは変速ギアーを誤ってバックに入れた為であること前示の通りであるから、被告人において仮りに警笛を吹鳴していたとしても、同車の後退を阻止できなかったというべきで、警笛を吹鳴しなかったことと本件事故の発生との間には因果関係は認められない。また被告人の自動車がより一層減速して進行したとしても本件事故を免れ得たという確証はないし、右のような通常予想し得ない後退がなければ被告人の車は中島の車の後方を楽に七、八〇糎の間隔をおいて安全に通過することができた筈で、これ以上の間隔をおいて進行したとしても本件事故は免れ得なかったものと認められるのである。(被告人の自動車が中島の車の後方に接着して通過しようとしたという事実は証拠上認められない。蓋し事故直後の被告人の司法警察職員に対する供述調書の供述記載、実況見分調書の指示説明中にはその後の経緯に照して一部信用し難いものがあり、原審検証調書中の指示説明も日時の経過により微細な距離関係において正確を保し難いと思われ、結局被告人の司法警察員に対する第二回供述調書及び検察官に対する供述調書の各供述記載が供述の経緯から信用できると考えられる。)

以上説示の通りであるから、中島の車がそのまま右折前進するものと考え原判示速度でその後方を通過しようとした被告人の運転行為には原判示のような注意義務の懈怠はない。

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